7
たまに出没してはその筋の社会を混沌に陥れる (笑)
性別反転の異能に掛かったわけでもなければ、
何処からか適当な女性を連れてきたわけでもなく。
正真正銘、本人だという証明のように、
「羅生門っ。」
若枝のような肢体をややしならせた、
すっくと立ったままという凛々しき構えから、
その身にまとう外套から躍り出す黒獣を
それは的確に操るという本領を存分に発揮し。
怪しき有象無象による襲撃を片っ端からめきめきと薙ぎ払う、漆黒の美少女様で。
またそちらもタイミングがいいやら悪いやら、
貸し切りにしたはずのエグゼクティブな場所での秘密の会合、
その前にこんな顔合わせ自体、公になっては一大事と内密にしていたはずだろうに、
はっきり言ってどんだけ情報管理が がばがばなのか。
○○氏か はたまたポートマフィアにか悔恨があるらしき輩の一群が、
お命頂戴とばかり、あちこちから湯水のように湧き出て来る庭園であり。(引用間違い?)
「観念せぇやっ!」
物騒な大型の武装、弾倉ベルト付き機関銃を構えて突っ込んでくる、
どこの自衛官崩れかと思わせるよな ガタイのいい男やら、
「哈っ!」
「おっとぉ。」
中空でも足場があるかのように鋭い二段蹴りを踏みかえての披露して見せるよな、
中也の俊敏な格闘術へいい線までついてくる級、
手練れらしき体術使いやらが入り混じった急襲犯相手に、
「羅生門っ!」
それは凛然と、そして凶悪にも、
腹からの声を張って黒獣を顕現させては、
銃器を抱えた刺客らを次々と鮮やかに蹂躙してゆく手際の良さよ。
しかも、
「芥川センパイっ!」
え?と中也がぎょっとしたよに目を見張った辺り、そこは手配していなかったらしいこと。
見慣れたパンツスーツも凛々しき金髪の女傑、
芥川の腹心として常に傍に付き従う、樋口嬢まで現れており。
「何だ何だ手前ら、どっから嗅ぎ付けた?」
単なる周辺警護として
せいぜい小型拳銃くらいの武装しかしては居なかった護衛班と入れ替わるよに、
そちらもガトリング銃やサブマシンガンを手に手に現れた黒服たちが、
こなれた掃射により庭園のあちこちから潜伏犯らをいぶり出す。
「…中也くん。」
実弾飛び交う銃撃戦とあっては、
さすがに素人の ○○氏ご一家も腰を抜かしかけぬほど怯えてしまわれ。
それを樋口が先導する格好でホテル内へと避難させ、
誰に何を聞かれてもいい状況となったの見越したか、
万が一のことを考えてだろう、異能の重力操作による“障壁”を張って守りを固めつつ、
鴎外殿の傍らに控えている大幹部へと日頃のように“名前呼び”でお声を掛けたマフィアの首魁様。
「あれは本当に “芥川くん”なのだね。」
「はい。何せ “芥川”を今日この場へ呼べとのお達しでしたので。」
確か、首領にはご縁の深い方々のいる場なので
決して粗相のないようにとも聞いておりましたゆえ、
ただの護衛ではあるまいと気を引き締めたうえで、我らが正装にてまかり越しました。
こたびのコトの真相として、彼らが召集受けたこの会合が 実は見合いの席だったことや、
その実、別の…鼻が利く“誰かさん”の思惑やら行動やらの方をこそ楽しみにしていた、
相変わらずにお人の悪い鴎外であることも。
その “誰かさん”による指図采配の下にて 実は実は把握済みの中也としては、
そうしろと言われたわけではないけれど、
あくまでも鴎外の機嫌を損ねぬよう、言葉を選び丁重に振る舞うことに徹している。
あまりその点を追求なさると、
おっかないあの青鯖野郎から必殺の仕置きを組まれかねません、と
何ならそこまでのご忠告も添えて差し上げていいほどに
裏事情とやらも熟知している身なれども。
自分にはこの残酷でお茶目な首魁を裏切るつもりなぞ欠片ほどもないのだし、
そんな意思を曲げたくはないのと同じほど、
以後もこの組織で生きてゆく芥川の居場所を失くすわけにもいかぬ。
何より、どこまでもあのいけ好かない青鯖 元相棒の意向に沿う言動を取るつもりはなかったのだが。
もしかして…そこまで読んでた彼奴であり、
自分が一枚噛むだろうというの自体もきっちり織り込み済みだったのだろかと思や、
ついつい ちっという舌打ちがこぼれそうになるほどには業腹だったが、
「きゃあっ!」
ホテル側の従業員らしい、メイド風の接客衣装をまとう女性を、
もしやして人質にしようとでも思ったか、
強引に掴みかかろうとした賊の一人を そのすんでで蹴り飛ばし、
女性を半ば抱えるようにして こちらへとホテル内ロビーへ誘導してゆく、
かっちりしたスーツをちょっと窮屈そうにしている黒服構成員へ、
ちらと目線を向けると苦笑を投げかける中也であり。
『何なら、私が常に挑発する格好で無駄に戦意を温めてある
しょむないチンピラ級のごろつきたちを、
その富豪ご一家への当て馬にと投じたっていいのだよ?』
まあ、今日本日の令嬢の視察先への急襲騒動を見ても、
そんな小細工は要らない現状のお方々らしいけれど、と。
既に情報の方も補完は完璧、
どんな策でも緩急自在に用意出来てると言わんばかりだった、
元歴代最年少幹部殿のお言いようへ、
『十代のお嬢さんもいるのに、そこまで怖がらせるのは可哀想ですよぉ。』
マフィアを手玉に取ろうとした考え違いを正すためなのは判りますが、
それでもやりすぎちゃあいけませんと。
途中からはすっかりと
今日の善き日への乱入大作戦の打ち合わせになってしまった顔合わせの場にて、
自分だって気の進まぬまま替え玉として女装させられた件の
大元、元凶のお嬢様を庇うようなお言いようをした虎の子くん。
親御がどこまで本気で我儘を通してやろうとしたものか、
むしろ ただ単に口実として生かしただけの文言かも知れないが、
それもこれも行き過ぎた溺愛の後遺症、これ以上振り回されるのは気の毒だと言い出したところ、
『じゃあ敦くんは、現場から私への実況担当ね。』
『…はい?』
細かい実況中継という格好の報告をしてくれというのじゃあない、
インカム装備して現場に紛れ込んでてくれれば、こっちで状況拾うからと太宰に言われ。
混信したり盗聴されたりしないよに、特殊な通信帯利用の探偵社製通信機を身につけ、
自分もこの修羅場へ飛び込むこととなった敦の活躍もなかなかのもの。
何だかややこしいことになってた事態だが、
その中身をしっかと理解した上での狼藉、もとえ大暴れゆえ、
心置きなく、且つ、ほころびの無いよう、
頑張る所存で こっそり加わっている彼であり。
異能を持つ存在がいないうえ、
鴎外の目の前で自分まで乱入するのはあからさま過ぎて業腹なのだろ司令塔殿。
管制用にと構えたボックスカーの中にて、
きっと満足した上でにんまり笑っておいでに違いない。
◇◇
ちょっと時間を遡り、
1日前の敦くんの自宅での種明かしの場へ立ち戻れば…。
「なんとあの手配書のこの子のお顔に
すっかり惚れてしまったという箱入りのご令嬢があってね。」
太宰としてはそこいらのきな臭い何かを既にしっかと把握し、
一秒でも遅れてはならぬとの対応に迅速に動いておればこそ、
肝心な愛する青年へは説明が足らない
なかなかに不人情なそれとなってしまった一連の不審な行動だったらしく。
問題の令嬢というのは、
ポートマフィアとも結構太いパイプのある名家旧家のお嬢さんだったその上、
両親がそれは猫っ可愛がりしておいで。
そっちの世界じゃあ男の子だから“御曹司”なのだろうが、
別に後を継ぐ嫡子じゃあないのだからと好き放題させておいでで、
「…ひょっとこして それって毬乃さま?」
心あたりがありすぎて、どんどんと嫌な予感が大きくなったのに耐えかねたか、
やや表情を引きつらせもって敦がおずおずとそう訊いたのへ、
太宰はそれは朗らかにパキーっと笑んでの曰く、
「向こうじゃあ 毬男様かもね。」
「うあぁ〜〜。」
そう、今日本日敦くんが女装して身代わりを務めた、当のご令嬢だったらしく。
もうご縁があった人なのか〜と 虎の子くんが頭を抱えたのもいっとき、
“太宰さんが喜々として下準備から参加していたのは
そういう方向でも関与があったからですね” と。
今になって判った裏事情という名の接点へ、敦がげんなりしてしまう。
「???」
何たって女装なんてしちゃった任務だし、
中也さんには内緒ですよと涙目でもって念押しした手前、
詳細を語るわけにもいかない敦なのも含め。
何だどうしたと、事情が判らぬ中也がキョトンとしたのへくくくと笑いつつ、
太宰が、あくまでも今回の自分の行動への背景とやらを解説しだす。
「結構な権力や権勢をお持ちの御一家でね。」
公安含めた各方面へ顔も利けば、金だって唸るほどお持ちで、
指名手配犯なんていうこの子の肩書も知ったことかで、
「世を憚る札付きが何ほどのものか、
屋敷の中から出さない恰好、つまりは軟禁すればいいなんてほざきやがってたらしく。」
それへ森さんの野郎も特に固辞しなかったのは、
自分たちを小馬鹿にされたことへは何とでも報復可能、
それよりも とある稀な好機を逃したくはなかったから。
それがためだけに、
欲を取って相手の話へ乗ったよな、たばかられたような振りをしたのだよ。
「そう、きっと私への嫌がらせのつもりだろう。どんな策を構えるかとね。」
ふふふーと笑う格好、口許こそほころんじゃあいるが、
気のせいでなければ目許からは溌剌としていた気色が消え、
随分とやさぐれた口利きになった太宰であり。
一応はあの強大な組織の長たるお人が、たかが昔のよしみのある小生意気な青年を踊らせるため、
そんな個人的な関心から
下手を打てばマフィアという組織への被害甚大となるかもしれないほどの、
傲慢そうな財界人による懐柔策へ乗ったふりをしたなんて。
しかもしかも、その喧嘩買ったといわんばかりの意気軒高、
芥川をどこぞかへ掻っ攫って匿うというのではなく、
“いや、ある意味で攫ってはいるようだが…。”
そ、そうなりますかね?(う〜んう〜ん)
婚姻は結べない存在とし、一応の保険を掛けたという格好で本人の身を護りつつ、
そこへの殴り込みを仕掛けんと構える太宰でもあるらしく。
それほどまでに芥川が大切な対象だと、
好き勝手したらマフィアの首領様でも容赦しないよと
真から怒った彼であるらしいというのは判るけど、
“体よく乗せられてないですか、それ。”
敦がこそりとその胸中でそうと感じたのは、まま、聞こえなかったことにするとして。
そしてその前準備が、
遠くて近い異世界への 異能による跳躍移送だったというから穿っている。
「そっちがその気ならこっちにも考えがあるってものでね。
明日の見合いに間に合うように、こたびの仕掛けを構えたのさ。」
「明日…。」
思っていたより切迫していた話だったらしいと、
当事者である芥川が ぽつりと呟き、やや戸惑ったような顔をする。
異世界へ独り放り込まれた挙句、
混乱冷めやらぬところへ待ち構えていた見合いとやらを突き付けられ、
見た目には判らぬが彼女なりに困惑しているのだろう。
ただ、まだまだ恋にも馴染みの浅い身だから恥じらっている…とかいう訳ではないらしく。
「三日が限度の異能だから、このような運びとされたのですね。」
どうして一番の要たる自分へ
何も説明の無いまま運ばれたのかへの答えを見たとばかり、
確信への納得を込めて深々と頷くお嬢さんであり。
そうという発言へ、首謀者である太宰が
“よく出来ました”と言わんばかり、
眩しいものでも見やるよに、目許をたわめ やんわりと微笑んで差し上げる。
「そういうこと。」
「…ぅおいっ 」
褒めてやるのは構わぬが、
「サムズアップは やめな。」
呟き投稿への“イイね”じゃねぇよ、調子に乗るなとの眇めた視線、
それだけで刺し殺さんという鋭さにて差し向けた中也幹部の心情もお判りいただけようかと。
確かにそれはお軽いぞ、天才策士殿。
だがだが、そんな軍師殿の頭の回転のみならず、
行動力や発想の斜めっぷりも凄まじいのが明らかになるのはこれからで。
「そこで、だ。
君らが想定したように、あの次元跳躍の異能持ちを利用した。」
しゃあしゃあとそこを認めた、とんでもない戦略家殿。
失敗していたらどうなっていたかは、成功しているのだからもはや問わないが、
“…もしかしてそうなったらなったで、
自分も追う格好で異世界へ旅立つ腹積もりだったのかもな。”
異能が利かぬ身の彼だが、唯一効いた試しがありもする。
そう、この異能無効化というスペック持ちの策士が
他でもない異能で女性にされてしまった一件があったっけと思い出しておれば、
「ああでも脱獄なんてさせちゃあいない。
ただ、時々自棄になっては発動させようとするって話は聞いてたからね。」
どう問われるかも多角的に想定済みだったのだろう。
そうと続けてから、
「ウィスパーって異能者が居ただろう?」 ( アダムとイブの昔より 参照)
他人の異能をコピー出来て、電信やマイクを通した格好ででも効果を発揮させられるっていう、
一時的な“異能無効化”と組んで、この私を麗しき女性に転変させた困った手合いだ、と。
一部しゃあしゃあと美化した言いようを並べられ、
「…ああ居たなぁ。」
「あれはびっくりでしたよね。」
過日の騒ぎを思い起こす中也と敦に挟まれた黒狗姫、
ぽつりと呟いたのが、
「……ウチではこの人そっくりだったが。////////」
「そ、そうか。」
「そうだったんだ、うん。」
そっちの“太宰さん”は男性になったのか、
赤くなってるけど わあカッコいいとか思ったんだろか、なんて。
ちょっと脱線してしまったお客人の一言へ、
皆して“ありゃまあ”とそれぞれなりの感慨寄せてから。
「と、いうわけで。」
そいつを連れ出して、あのフライングマンの収監されてる部屋を覗かせ、
特別な異能とやらの発動仕様を読み取ってもらって、
「さっき、キミへの入電という格好で聞いてもらったってわけなのさ。」
「…っ。」
コピータイプはレベルが低いと効果も半減したりするものだというが、
あの子はなかなか完成度もい方だったからね。
一応はと試したクチの、他の異能の復元もなかなかのレベルだったし。
え? 彼もまた異能特務課に引き渡したんじゃあなかったかって?
勿論さ、だからこそこんな急でも居場所が判ったんじゃあないか。
「……。」
一応は論理破綻もないお言いようへ、
二の句が継げなかったのが芥川嬢ならば、
「うわぁ。」
「最悪だな、手前。」
するりと通った鼻梁をさも誇らしげに反らせるよにしての澄まし顔、
どうだ水をも漏らさぬ周到ぶりだろうと飄々と言ってのける太宰だが、
それってもしかせずとも…異能特務課へも無理を言って従わせたってことにならないか。
しかもしかも、異能特務課預かりというの、危険人物の身柄確保という意ではなく
居所が判りやすい場所に確保してただけって解釈してないか?と。
「〜〜〜。」 × 2
周到もここまでくると気味が悪いとか、
どえらいお人に見込まれたな芥川とか、
中也や敦が呆れかえって渋面を作るのも物ともせず。
味方認定してからあらためて敦が淹れて来たお茶で、
澄まし顔のまま、静かに口元を湿した包帯美丈夫様は、
「で? 一体何が怖くてああまで必死に逃げ出したの?」
「……っ。」
敦の向こう側という位置にて、やや縮こまって正座中の黒狗姫へ、
改めてというお顔とお声になってそうと問う。
何の前振りもなくまたしても異世界へ放り出されるなんて、
確かに不安がられるのは致し方ないとの心の用意もあったけど、
「羅生門でテーブルやソファーを片っ端から釣り上げての室内へと舞わせ、
私へはぶつからぬよう気を遣ってくれつつもバリケェドにと築き上げ、
そんな堅固な城塞もどきの足止めを築いた末に、
部屋の窓を砕き割って外へと飛び出したものね。怪我はしなかったかい?」
“おおう、それはまた…。”
確かにそこまでの拒絶をされちゃあ傷つくかもな、変態でも…と。
中也が胸のうちにて微妙に失礼な言い方で同情(?)したのは置いといて。
「自慢じゃあないが、私、腕力や体術はそっちの太宰さんと大して違わないよ?
そりゃまあ、呆然自失状態なら抑え込めもしただろうが、」
「おいおい 」
その言い方、とばかりのお怒りマークがこめかみに浮かび、
同情するこたなかったと、小さな五大幹部様が眉をぎゅぎゅうっと寄せたほど、
十分に穏やかならないことを並べる太宰へ。
誤解は解けた今、自分がやらかした慌てふためきが滑稽だったと思いもしてか、
自分のお膝に小さめの拳をぎゅうと握ったの見下ろしつつ、
細い肩をますますと縮め、真っ赤になった芥川さんがぼそりとこぼしたのが、
「や、やつがれが同性なのがよろしくないと思われたのではと。////////」
「…おっと。」
女の自分が貴方に呼ばれたのと同時、
太宰さんも男の自分をその傍へ招いたのだろうかと思ったら、
何だか居ても立ってもいられなくなり。
「何のためとかそういうのへは気が回りませなんだが、
ともかく、太宰さんではない“太宰さん”の前に居ちゃあいけないとつい…。////////」
そっくりでも別人の殿方を前に、
女性としての警報じみたものを感じた末の
力いっぱいな逐電だったと言う黒獣の女主人様であり。
失礼を働いたからなのか、
それとも そのような心持を口にして少女らしくも含羞みが沸いたか。
泡雪のような純白の頬へさぁっと朱が差したのが何とも愛らしく。
とはいえど、
「ちょっと待ってよ。」
そこはさすがに意外というか心外な解釈だったようで、
太宰の側が珍しくも見て判るほど泡を食う。
確かに美人を見ればナンパする尻軽男という体を装っちゃあいるけれど、
向こうの太宰さんがどう思ってるかまでは判らないけど、
少なくとも私は性別がどうこうだなんて そんなこと思ったことないぞ?
とでも言いたいものか。
間に挟まってた敦があわわと自主的に身を避けてしまったほどの性急さ、
腰を上げての身を起こし、
躍起な態度で頼もしい双腕伸ばして、お嬢さんへの二の腕へ掴みかかった太宰氏であり。
「…っ。」
ただの反射だろうが、怯えたように身を震わせたのへ、
それもらしくはないほど 胸へチクリと刺すものがあったれど、
今はそれどころじゃあない。
急くような想いがされど言葉として紡がれねば伝わらないのがもどかしい、
そんなジレンマに口許震わせ、
それでも言葉は選びつつ、
「例えば今のキミがあの子だとしても…
ややこしい言い方だね、あの子が女性だったとしても、かな?
私は絶対に心中には誘わない。」
はい? × 3
何を胸張って持ち出すかなと呆れたのが中也と敦なら、
そのような対象にさえ思ってもらえないのかと
大きな双眸を見張り、胸元押さえた黒狗姫だったのへ、
ゆるゆるとかぶりを振って、
「そんなことのために育てたんじゃあないからだ。」
胸張って言い切ったものの、
自分でもそうと評価しているようなら、
自殺などという危険な行為、とっとと辞めればいいのではなかろうか。
聡明透徹な人ながら、やはり何考えているのか理解しがたいと、
「そんなこと…。」
その言いよう、ついつい復唱してしまった芥川嬢のお顔を見つめ、
うんとしっかり頷いてから、
「私のはこの世に失望しまくった挙句の、もはやくせになってる習慣則だからね。」
無駄にいい男が、そんなろくでもないこと言うもんじゃあありません。
途轍もなく正論に聞こえてしまうじゃあありませんか。
「あの子へ思うのは、
そんな “ちょっと付き合って”級の存在価値なんかじゃあないのだよ。」
一番安全だろう“異世界”へ大慌てで匿ってしまったほどに。
もしかして安全に運ぶかは五分五分で、もっと真面な策は幾らでもあったろうに、
あまりの怒りと衝撃から自慢の頭がよく働かなくなって
最も荒唐無稽な策を執ってしまったほどに。
自身の根本を揺るがす一大事だったのだからねと、何故だか胸張る太宰へ向けて、
「むしろ、その自殺嗜好を何とかしろやっ 」
敦くんまで救助に向かっているという習慣則とやら、
はた迷惑甚だしいと、中也さんが迫力たっぷりに唸ったところで、
「ともあれ、森さんには目にもの見せてくれようじゃないか。」
夢見るようなお顔は此処までとの区切り良く、
何度かのくっきりした瞬きを挟んでからの
太宰の表情や雰囲気の変貌ぶりはなかなかのそれ。
よく判らない政略結婚へのお誘いを妨害してやったのは
あくまでもこの子のためとし、
そこのところはさすがにピンと来るだろうが、
こんなことへと踊らされた報復、別口で構えてもいいのだよ?
似たようなお馬鹿を繰り返さぬようにね。
何だったら伝言頼まれてくれるかな? 中也。
「見合いの場へ誘導して投入するチンピラ共より ランクも上げて差し上げないと失礼だろうね。
ロシアンマフィアの中程度規模の組織を半ダースほど、
情報戦にて色々と振り回して大きく勘違いさせた状態で頭へ血を昇らせた上で、
本拠へゲリラ戦よろしく次々突入させたっていいんだよ?」
コリアンマフィアの方がいい?
武装はほどほどだけど、体裁きがそりゃあ秀逸な駒を揃えた組織を2つ3つ知ってるけど。
おいおい…。
to be continued.(18.09.04.〜)
BACK/NEXT→
*相変わらず段取りの解説が長くなってすいません。
頭の悪いおばさんが仕立てているもんで、
演算といいますか、此処は端折ってもいいのかな、
此処は回りくどくなっちゃうけどいいのかなというのが、
なかなか把握できてませんで、要領悪いばっかで申し訳なく。

|